「青ナイル」&「白ナイル」

アラン・ムアヘッド著(筑摩叢書)
「ナイル川の水源?そんなことどうでもいい!」と思っている方は、この記事をお読みの方の中には少ないかもしれません。が、そう思う日本人は多いかもしれませんね。

でも、ヨーロッパの人々にとってナイル川はとても重要な川だったんじゃないかと思います。ヨーロッパの文化が、キリスト教文化とともに、ローマやギリシャ文化、そしてアレキサンドリアのヘレニズム文化を元にしている(と言ってしまうと飛躍しすぎかもしれませんが・・・)、いわば彼らの文化的ルーツがそこにあるからなのかもしれません。その文明を支えたのは、もちろんナイル川。そして、この世界で最も有名な川の水源は19世紀になるまでわかりませんでした。
2冊のうち、「白ナイル」は古代エジプト文明の時代からナイル川の水源が見つかる19世紀の動きを辿っており、クライマックスはイギリスの探検家、リチャード・バートンとジョン・H・スピークの争い。イギリスがフランスとともにアフリカを分割し、支配し、地域の混迷や無秩序、破壊を生んでいく前の、大きな好奇心と類稀な行動力が中央アフリカを流れるナイル川を遡上し、未知の世界の空白地帯に色を染めていく姿を克明に記した記録です。バートンとスピークの他、ベイカー夫妻、リビングストン、スタンレー、ゴードンといった多くの探検家、悪く言ってしまえばクセ者たちが、西欧が一方的に「暗黒大陸」と呼んでいたアフリカ大陸に、西欧がいう意味での一方的な「光」を当てていきます。探索者本人たちが意識していたかどうかは別にして(スタンレーのようにその欲望バリバリで突き進んでいった人もいますが)、早い話が植民地化の先鞭の更に前の段階、アフリカの「深さ」と西欧のはみ出しものたちの初めての出会いを描いた物語としても読めます。
一方の「青ナイル」は、スコットランド人のジェームズ・ブルース(まさに「怪人」と呼ぶにふさわしい人物です)による18世紀末の青ナイルの水源探索に始まり、ナポレオンのエジプト侵入、トルコによるスーダン征服、イギリスのエチオピア侵攻など、水源発見によって探険家たちの時代が終わりを告げ、政治と戦争、欲望によってアフリカが翻弄されていく様を、生々しく描いています。
両ナイルを取り巻く歴史的な流れを知るのに、これほどまとまった、しかも物語り然として読みやすいものはないのではないかと思います。エジプト、スーダン、ウガンダ、エチオピアの流域4カ国を旅する前に、2冊合わせて読んでおくと、見えてくるものがかなり違ってくるのではないでしょうか。
残念ながら現在絶版で、古本屋やamazon.comの中古でしか手に入りません。筑摩書房さん、是非復刊&文庫化をお願いします!
因みに、もう一本の大河「コンゴ河」に関しても、ピーター・フォーバスという方が書いた
『コンゴ河―その発見、探検、開発の物語』
という素晴らしい本があります。
しかし、しかーし!残念ながらこちらも絶版・・・。
トホホ(泣)。
「白ナイル」「青ナイル」~筑摩叢書刊(1963年、1976年)
著者紹介
アラン・ムーアヘッド
第一次・第二次対戦及び、19世紀における探検を主なテーマとして執筆した、オーストラリア出身の世界的ノンフィクション作家。1910年オーストラリアのメルボルンに生まれ。デイリー・エクスプレス紙の海外特派員としてスペイン内戦や第二次世界大戦を取材。戦後は執筆活動に専念し、『恐るべき空白―死のオーストラリア縦断』で英国王立文学協会賞受賞。1983年、死去。
※アフリカとは関係ありませんが、オーストラリアの探検を描いた、この「恐るべき空白」もこのジャンルでは名著の部類に入ると思います!ご興味ある方は、是非!
東京本社 羽鳥