「世界が生まれた朝に」 エマニュエル・ドンガラ著

「世界が生まれた朝に」 エマニュエル・ドンガラ著

皆さんはコロンビアのノーベル文学賞受賞作家ガブリエル・ガルシア・マルケスの「百年の孤独」をお読みになったことはありますか?本好き、物語好きの方であれば、きっと一度は読んだことがあるのではないかと思う著名な作品で、学生時代の片道3時間電車通学、社会人になってからの片道2時間通勤を読書だけで乗り切ってきた私の、「今まで読んだ本・小説部門ベスト1」の作品なのですが、アフリカ・コンゴ共和国出身の作家が書き上げた、アフリカ版(と言っても全く異なるストーリーですが)「百年の孤独」的な物語が、ご紹介する「世界が生まれた朝に」です。
「百年の孤独」が、南米にある架空の村“マコンド”の隆盛と滅亡、そこに暮らすブエンディア一族の孤独と運命を、幻想的な出来事、生と死、希望と絶望に絡めて描いたのに対して、「世界が生まれた朝に」は、架空のアフリカの国(もちろんコンゴがモデルになっています)を舞台に、激動の時代を生きた一人の人間、賢者マンクンクの生涯を通して、時代の変化とそれに伴う文化・価値観の変化、世代間ギャップ、個人の葛藤など、さまざまなテーマが描かれています。
伝統が支配する原始的な氏族社会、白人の流入による植民地時代、黒人たちの手による革命期、そして独立後と、物語はアフリカ諸国の経た歴史を凝縮したような展開をし、大きな視点では時代の変化による文化、価値観といったものの変化を、小さな視点では、激動の時代に直面した人間の葛藤、新しい世代と古い世代との隔絶に悩まされる人間の姿を描いています。
読後は何とも言えない不思議な、寂しさと爽やかさが入り混じったような感覚と同時に、自分がアフリカ人として一生を送ったような感覚を覚えるような作品です。仏語の原版を日本語訳したのは元早稲田大学探検部で、「謎の独立国家ソマリランド」等の著者の高野秀行さん。しかも、仏文科の卒論として翻訳されたそうです。
物語としても非常に面白く、名著の部類に入ると思いますし、おそらくアフリカ文学の入門編として、最良の一冊のように思うのですが、残念ながら現在絶版状態。某大手ネット書店では中古本が8,000円という高値で売られていました。1996年に発売されたときは、確か2,000円ちょっとだったと思うのですが・・・。
“日本語訳は珍しい、アフリカ人作家による物語”ではなく、世界文学の中の1冊として扱うべきと思えるようなこういう作品こそ、電子書籍でも良いので何とか再出版して欲しいと思います。古本屋等で見つけた際は、是非お手に取って読んでみてください。
by 羽鳥