私がガイド務める自然写真撮影ツアーでは、これまで特定の動物や個体に的を絞った企画を立てたことはなかった。しかしケニアのライキピアに極めてフォトジェニックで、しかも車慣れしたギザというクロヒョウが現れたことで状況が変わった。彼女が生きているうちに是非その姿を写真に収めておきたい。そんな欲求もあって6月中旬にクロヒョウ(ブラックパンサー)撮影ツアー催行という運びとなった。ツアー内容はまずナイロビ到着後にアバデア国立公園のツリートップス・ロッジで一泊、そこからライキピアで4泊、サンブル国立保護区で2泊という盛りだくさんな内容だった。それぞれに環境や生物相、風景に特色があり、クロヒョウ以外にも撮れ高は非常によかった。
1932年創業という歴史あるサファリロッジで、元々はイギリス植民地時代に狩猟のために作られた施設。館内の内装はハンティング・ロッジだった頃の面影を今に留めている。標高2000メートルほどの深い山岳林の中に建てられており、客室の窓からは動物たちの集まってくる水場が一望できる。この宿の名物が部屋の中に設置されたブザー。オンにしておくと、夜間こちらが床に就いた後も目ぼしい動物が水場に姿を現した際に音で知らせてくれるのだ。今回はゾウやバッファローなどの他に絶滅危惧種のクロサイがやってきたし、夜遅くまで粘った参加メンバーはレアもののモリイノシシ(Giant Forest Hog)の撮影に成功した。
ライキピアで宿泊したのはウィルダネス・リバー・ロッジ。ナロク川という川の岸辺に設けられた5部屋しかないアットホームな雰囲気の宿で、貸切りなのでとてものんびりとしたステイを楽しむことができた。ゲームドライブは早朝/夕方〜夜の二部制となっており、これは南部アフリカの私営動物保護区と同じスタイルだ。日中、ブランチ後は昼寝の時間が確保できるため、体力的な負担が少なくてありがたかった。また、サファリカーはオープンタイプで、オフロード走行も許されているため撮影条件は非常によかった。
さて、本題のクロヒョウ・ギザだが、今回は夜間と日中の二回出会うことに成功し、しかも車のすぐそばでアフリカノウサギとディクディクを仕留めてくれるという幸運にも恵まれた。全身真っ黒な彼女の姿は実に美しく、その存在感はやはり別格であった。しかし、ライキピアのナイトサファリでは、動物たちへの光の影響を軽減するためにスポットライトに赤いフィルターを被せている。これは撮影をする上では非常に大きな障害だった。何でもかんでも真っ赤になってしまい、撮りっぱなし状態では写真が使い物にならない。当初は諦めてモノクロ変換するしかないかと考えたが、後にアドビ・ライトルーム等の現像ソフトを駆使すればかなり綺麗に「赤抜き」ができることを発見した。もちろんこれはRAWでの撮影を大前提としているし、写真現像ソフトの扱いにある程度慣れていないと難しいのだが、詳しいテクニックについては道祖神で開催している写真セミナーの際に説明しようと思う。
ライキピアでのメインターゲットは当然ギザだったわけだが、ここは普通のヒョウの個体数、個体密度も非常に高く、ゲームドライブに出てヒョウを見ない時がないくらいだった。この点に関してはボツワナのマシャトゥ動物保護区並みと言っていい。そしてこれもマシャトゥ同様に、個体ごとに名前がついており、テリトリーの範囲や血縁関係までガイドたちが把握しているので、毎回「ヒョウを見つける」ではなく「今回は誰に会えるか?」という感覚になって楽しかった。ギザの他にオスのキシワ、そのパートナーのニョシャ、そして独り立ちしたばかりのキシワ/ニョシャの子キニョなど、名前で分かるようになるとそれぞれのキャラクターまで見えてきてどんどん親近感が湧いてくる。また、ヒョウ意外にもリカオンやシマハイエナのような珍しい肉食獣やグレービーシマウマ、アミメキリン、フサホロホロチョウといった、この地域独特の動物たちも多く生息しており被写体に事欠くことは一切なかった。
ツアー最後に訪れたのはサンブル国立保護区。ここを日程に組み込んだのは、ライキピアでは撮影が困難なゲレヌクとソマリダチョウ、ベイサオリックスが撮れるためだ。これら3種にグレービーシマウマ、アミメキリン、フサホロホロチョウを加えた6種を、他地域では見ることができないことから、サファリの世界ではサンブル・スペシャル・シックスと呼ぶ。だがサンブルの魅力はそれだけではない。野鳥の数は非常に多いし、今回は子連れのチーターと遭遇したり、ロッジに大きなオスのアフリカゾウがやってきたりと、終始盛りだくさんの内容だった。
このツアーは2027年も開催予定。本気で写真を撮りたい方のために、4名のみの超少人数制としている。