風まかせ旅まかせ Vol.13 幸福な時間

最初にケニアを訪れたのは78年、今から34年前だ。まだナイロビの車の数も少なく、夜の一人歩きも不安がなかった。マサイの兄ちゃん達が牛を追いながら、ケニヤッタアベニューを横切ったりしていた。
ある日、駐在員のKちゃんと、事務所近くのカフェに入った。私は当時好きだったビターレモンを注文した。レモンスカッシュのようなソーダだ。するとKちゃんがウェイターに向かって「×××××・・・!」と強く言った。ウェイターは笑っている。スワヒリ語のできない私が、「今、何て言ったの?」と聞くと、「ビンの詮を歯で開けるんじゃないわよ!」と言ったそうだ。
スコールになれば道路は下水で溢れ、ドロドロになった市内を走るバスは、窓ガラスが割れたままだったし、ギアチェンジのシフトレバーにはグリップの代わりに食べ終わったトウモロコシの芯が刺さっていた。運転手はトウモロコシをかじりながら、当たり前のようにトウモロコシレバーでギアチャンジをしていたし、満員のお客の誰も不思議がる人はいなかった。ひどくノンビリとした幸せな時代だったように思う。
その後ナイロビは急激な人口の流入とともに、巨大なスラム街が生まれ、治安も悪化し、他のアフリカの都市同様、自動車の増加とともに酷い渋滞が発生するようになり、多くの社会問題が取り上げられる大都市へと変化した。
変わらないのは赤道直下の太陽と空、プカプカと浮かぶ雲とサバンナの広がり、そしてそこに住む多くの野生動物だ。ロッジの芝生に寝転がり、鳥やサバンナモンキーのキーキーという鳴き声を聞きながら、空を見上げ、手の届きそうなところに浮ぶ雲を見て、高原の風に吹かれている時ほど、幸福な時間はないと思っている。
日本の仕事や生活から生まれるアレやコレや…ストレスの原因一切合切が、実はどうでもいいことに思えてきてしまう。本当にアフリカに来て良かった! と思える時間だ。ウソだと思うなら、ぜひ一度、サバンナで寝転んでみてほしい。幸福な時間は私が約束します!
写真 : マサイ・マラ国立保護区