映画『La Pirogue / ピローグ(丸木舟)』

先日、出張の際に乗ったエチオピア航空。その機内でたまたま観た1本の映画が忘れられない1本でしたので紹介します。
2012年に制作された映画で、監督はムッサ・トゥーレ。セネガル人の映画監督の手による、セネガルを舞台とした、正真正銘のアフリカ映画です。
冒頭、のっけからサバールの太鼓の音が鳴り響く。岩のように鍛え抜いた身体の2人の男が向かい合って対峙する。Laamb(セネガル相撲)の試合のワンシーン。太鼓の音がテンポを上げて、見ている観客たちもたまらず踊りだす。映画が始まって5分も経っていないのに、画面に映るのが濃厚なセネガル臭100%で嬉しくなります。
主人公はセネガル南部の漁村に暮らすバイライという漁師の青年。毎日ピローグ(丸木舟)を操り、漁に出て真面目に妻と息子を養う日々。そんな彼が、ある理由からヨーロッパまで渡る不法移民の舟の舵取りを任されます。セネガルやマリといった西アフリカを旅行されたことのある方にはお馴染みのピローグ船にエンジンを付けたもの。あんな小舟で、命がけで大西洋を北上し、ヨーロッパを目指します。
セネガルやガンビア、ギニアビサウ、各地域から希望を抱いて集まってきた30人の不法移民の人達が、寄り添うように一艘のピローグ舟に乗り込みますが、ウォロフ、フラニやフータ、ルブーといった異なった出自の人々は言葉も違えば、宗派も違う。コミュニケーションもままならないまま、航海を続け、そして船は嵐に見舞われて…、というのが大まかなストーリーです。
本作は西アフリカからヨーロッパに渡る不法移民のビジネスについて描かれていて、航海途中で亡くなった多くの人たちに捧げられている作品なのですが、状況は違えど、ヨーロッパでもアメリカでも、そしてここ日本でも、多くのアフリカの人々が海を渡ってきます。出発前に主人公のバイライが、友人を諭すように、セネガルに残って家族と暮らすこと以上に幸せな事なんかない、と力説しますが、仲間たちはヨーロッパに渡って成功することに夢や希望を抱き続けます。そんな彼らの想いは、これがとても純粋で真っすぐなもので…。
自分の周りにも少なからずいるアフリカの友人たち、そんな彼らが異国の友人には見せない部分を垣間見てしまったような気がして、個人的には前半部分のごくごく僅かなこのシーンに胸を詰まらせられました。明快な答えは用意されておらず、何が正しいか間違っているのかはこの作品では提示されませんが、現実だけをさらっと切り取って見せつける作風が、文字通り心に突き刺さりました。
2012年の作品で日本公開もされておりませんし、字幕も仏語と英語くらいしかありません。DVD化はされていますが、入手は海外からの取り寄せか、有料映画サイトで見つけるしかなさそうな作品です。すぐにチェックするにはハードルの高い1本ですが、是非じっくりと向き合ってほしい1本です。
『La Pirogue / ピローグ』(予告編)

by 生野