African Art 26 クバ族の化粧箱 “TUKULA BOX”

ここに紹介する3つの箱は、長年大切に使われてきたクバ族の化粧箱や貴重品入れである。

①W35×D17×H8cm
①W35×D17×H8cm

1番目の三日月型の箱は女性の化粧箱で、針や宝石や貴重品を納めるほかに、Camwoodという木の皮から作られる通称“トゥクラ”と呼ばれる赤い粉を入れていた。この赤い粉はクバの人にとって西欧の金にも匹敵する価値を持つ貴重なものであった。トゥクラは主としてダンスなどのときに顔や体に付ける文様を描いたり、髪に塗ったりして使われたが、装飾用にも利用され、この紫がかった赤い粉は金属容器、人物像、武器、神具などにも多く塗られている。それ以外にも、妊娠した女性、出産した女性、新生児への祝福、病人への慰謝、兵士への褒美などとして、人々に名誉を与え美しく飾るためにも使われた。通常この粉は特別な木か土製の皿の上でヤシ油から抽出されたオイルと混ぜ合わせて使われる。さらにトゥクラのもう一つ重要な点は、この粉をきつく固め陽に当てるなどしてBangotolと呼ばれるクバ族特有の儀礼用貨幣を作ることである。四角い形や幾何学文で作られたBangotolは威信のある贈り物として、結婚式や葬式の時に重要な人々に配られた。箱全体の表面には、クバ族独特の草ビロードやンチャックなどに使われているのと同じ文様が施されている。写真の、顔のデザインが施されている箱は特別なデザインで儀礼などにも使われる。この顔の部分には通常所有者の特徴を表わす独自のデザインが表現される。
②直径19×H27cm
②直径19×H27cm

2番目の大きな丸い筒型の箱は、ラフィア椰子やツルなどで作られたバスケットが原型となっていて、蓋の部分も籠のデザインと同じである。箱はバスケットを原型としながら木製の丈夫な箱に仕立て上げたものである。箱全体はクバの人々が好んで使う結び目文様で覆われていて、上蓋は開くようになっている。上に施された亀のデザインは害虫除けのおまじないである。この大きな筒型の箱には化粧道具の他いろいろな貴金属や貴重なものなども収められていたらしい。ススや手磨れなどで黒光りするこの重厚な味わいは、人々が長い間大切に使ってきた証でもあるだろう。
③W28.5×D15×H18cm
③W28.5×D15×H18cm

3番目の楕円形の箱も木製であるが、やはり原型は椰子の枝などから作られた籠である。蓋部分の取っ手は木の枝の形そのままで、原型になっている籠の姿を生き生きと伝えている。
200~300年も使われたこれら漆黒の木箱は、どっしりした重々しい風格を示しながら年月を経たその長い歴史を静かに語っているようだ。
写真提供/小川 弘さん

小川 弘さん
1977年、(株)東京かんかん設立。アフリカの美術品を中心に、アフリカ・インド・東南アジアの雑貨、テキスタイルなどを取り扱っている。著書にアフリカ美術の専門書「アフリカのかたち」。公式ウェブサイト http://www.kankan.co.jp/

African Art 25 トーゴ エウェの人形

アフリカには多種多様な人形がある。その多くは愛玩用というより占いの儀式に使うものであったり、願いを託した身代わり像であったり、土着信仰に由来している。しかし、今回ご紹介するトーゴのエウェ族のコロン人形はそうした一般的な人形と全く違うジャンルに属す大変ユニークなものである。

トーゴ エウェ族のコロン人形 左からH28cm、35cm、24cm、38cm、22cm
トーゴ エウェ族のコロン人形 左からH28cm、35cm、24cm、38cm、22cm

トーゴは1885年にヨーロッパ連合の取り決めによりドイツの植民地になった。ドイツはトーゴをアフリカの文明化のモデルとして他のヨーロッパ諸国に示そうと鉄道の建設や道路整備などに着手して急速な近代化を進めた。この政策のためにドイツからは優秀で教養のある上流階級の人間が派遣され、豊富な資金とエネルギーが惜しみなく使われた。トーゴ、特にエウェの人々の目にこのような最新の技術を駆使する白人たちは特別の魔力を持った存在として映ることになった。テクノロジーとは一切無縁の長い時代を過ごした人々にとって次々と新しいものに出会うということはどんなことだったろう。ある意味で白人たちは神のような存在として出現したのだとしても不思議ではない。
トーゴ エウェ族のコロン人形 H72cm
トーゴ エウェ族のコロン人形 H72cm

トーゴ エウェ族のコロン人形 H70cm
トーゴ エウェ族のコロン人形 H70cm

祖先信仰としてコロン人形を祀る習慣を持つエウェの人たちであったが、ドイツの入植者からは生贄の血液を伴う伝統的な祭祀を禁じられていた。そのこともあり、白人を象った新しい種類のフェティッシュを注文する人たちが現れて、白人の典型的な服装や装飾品を付けた人形が作られるようになった。エウェの家庭の祭壇では白人の持つ力を取り入れようとこの新しいコロン人形が飾られ、不吉な事から身を守るために願いを込めて大切に祀られた。伝統的な儀礼とは異なった方法でこのような人形が作られたことはドイツ人の入植がエウェの社会にポジティブな意味を持っていたということだろう。これらの独特なコロン人形は1885年以前には見られず、1914年以降にもほとんど見られない。この30年弱の期間は白人が神のように考えられた歴史的に稀にみる幸福な時間であったといえるだろう。その意味で、最初の入植者としてのドイツ人が上流階級の人間であったということは重要である。彼らは勇気があり、優しく、勤勉であり、惜しみなく文明の利器を伝えた。
トーゴ エウェ族のコロン人形 H67cm
トーゴ エウェ族のコロン人形 H67cm

トーゴ エウェ族のコロン人形 H68cm
トーゴ エウェ族のコロン人形 H68cm

エウェの人たちがドイツ人を恩人として尊敬し、人形に表現したことはうなずける。
写真提供/小川 弘さん

小川 弘さん
1977年、(株)東京かんかん設立。アフリカの美術品を中心に、アフリカ・インド・東南アジアの雑貨、テキスタイルなどを取り扱っている。著書にアフリカ美術の専門書「アフリカのかたち」。公式ウェブサイト http://www.kankan.co.jp/

African Art 24 西アフリカの真鍮の装飾品

西アフリカには真鍮で作られた数多くの装身具がある。指輪、ペンダント、ブレスレット、お守りなど部族ごとに個性があり、形態的にも素晴らしいものである。これらの真鍮細工は様々な書籍で紹介されているが、今回はその一端を私の持っている作品でお見せしたいと思う。ほとんどは各部族の土着信仰に由来していて、動物のデザインについては信仰上重要な意味合いがあり、とても興味深い。

①人物像のペンダント(セヌフォ族)
①人物像のペンダント(セヌフォ族)

①人物像のペンダント(セヌフォ族):人物像が1人の場合と、2人、3人、まれに4人の場合もある。一般的には多くが2人で、双子の場合も多い。大地の守護神を表わすと信じられていて、厄災から身を守るお守りのような意味合いを持っている。通常はペンダントとして使うが、小さなものは、腰や足首、腕に付けられる。
②毒蛇に対するお守り(ガン族)
②毒蛇に対するお守り(ガン族)

②毒蛇に対するお守り(ガン族):占い師たちがパイソンなどの毒蛇から身を守るためのお守りとして農夫たちに渡した。これらのお守りは通常足のくるぶしに付けられた。複数の頭を持つ蛇はガン族の精霊“tvrifa”を表わす。この精霊は15世紀ガン族がガーナから移住した時一緒にやってきて、日常の行ない“sim nyaaba”の間に顕れた精霊に属するという。
③カメレオンのペアペンダント(ボボ族)
③カメレオンのペアペンダント(ボボ族)

③カメレオンのペアペンダント(ボボ族):ブルキナファソでは、占い師たちは上下に並んだペアのカメレオンを護符としてよく使う。子供たちは1匹のカメレオンのペンダントを付けることが多い。この部族社会では、カメレオンの原初の性質は宇宙の時間に関連付けられていて、出産の瞬間に近づいた女性たちには、悪い予兆を排除するために多くのペンダントが渡される。この世に生れ出る際の危機に直面した子供と占い師の交感を通じて魂は胎児に入ると信じられている。その瞬間の異常事態をペンダントが警護するのである。ボボ族はこれらを“魂のモノ”という意味の“Sabin a fre”と呼んだ。このような生れ出るときの護符は全てのボボ族の人たちに与えられ、生涯大切にされる。
④カメレオンの指輪(セヌフォ族)
④カメレオンの指輪(セヌフォ族)

④カメレオンの指輪(セヌフォ族):カメレオンの指輪は男性にのみ使用される。使用する形は年齢層によって通過儀礼の段階を表わす。セヌフォの社会ではカメレオンは賢明さを表わし、それを付けることは自身を賢明にすると信じられている。カメレオンは創造神から創られたものなので、たとえ偶然であろうと殺すことは大変な厄災が降りかかる。その危険を避けるためにも人々はカメレオンの付いた指輪、ブレスレット、ペンダントなど常に身に付けている。カメレオンはまたいろいろな病気などの厄災除けのシンボルでもあり日常生活から切り離せない。
このほか、ドゴン族にも真鍮の装飾品は多い。
⑤ドゴン族の水連をモチーフにした指輪
⑤ドゴン族の水連をモチーフにした指輪

⑥穀物庫をモチーフにした指輪。牝牛と女性の乳房を表わしているともいわれ、富と豊穣を表わす
⑥穀物庫をモチーフにした指輪。牝牛と女性の乳房を表わしているともいわれ、富と豊穣を表わす

⑦ドゴン族の指輪と思われていたが、馬具の紐と一緒に発掘されたことで馬具に属する何かではないかと考えられている
⑦ドゴン族の指輪と思われていたが、馬具の紐と一緒に発掘されたことで馬具に属する何かではないかと考えられている

⑧アシャンティ族の“アサンテヘナ”王の指輪。通常は金製
⑧アシャンティ族の“アサンテヘナ”王の指輪。通常は金製

写真提供/小川 弘さん

小川 弘さん
1977年、(株)東京かんかん設立。アフリカの美術品を中心に、アフリカ・インド・東南アジアの雑貨、テキスタイルなどを取り扱っている。著書にアフリカ美術の専門書「アフリカのかたち」。公式ウェブサイト http://www.kankan.co.jp/

African Art 23 ガーナ “アディンクラ”の布に使うスタンプ

ガーナのシャンティ族やアサンテ族の布のデザインに使われるヒョウタンのスタンプは今に残る貴重な伝統工芸といえる。アディンクラと呼ばれる衣装はもともと葬式の時に死者を弔うために着用したものであった。アディンクラの本来の意味は“さようなら”ということでもある。しかし、近年、鮮やかな色合いのものも作られるようになり葬式以外の儀式や余興時にも着られることが多くなった。この地域でアディンクラが着用されるようになったのは17世紀にも遡る。この部族に属する全ての人は少なくとも一着の手製のスタンプで作られたアディンクラの衣装を持つ必要があった。

アディンクラの布
アディンクラの布

アディンクラを纏った人(かんかんプレスより)
アディンクラを纏った人(かんかんプレスより)

今回紹介するスタンプはその布のデザインに使われるヒョウタン製のブロックプリントの道具である。1cm位の厚さのヒョウタンの殻がまだ柔らかい時に5mmほどの深さにデザインを彫り込み、裏側には4-5本のラフィア椰子の木切れを指し込んで布切れと糸で束ねてスタンプの柄にする。デザインの種類は2200にもおよびそれぞれに名前があり、ことわざや言い伝えに基づいた意味が込められている。私がアクラで2年間に収集しただけでも100種類を優に越えている。それぞれのデザインがなかなかおもしろくデザイン的にもとても洗練されている。できるだけ多くを紹介したいのではあるが、限られた紙面では難しい。小さな写真になってしまうが、一部の名称とその意味を説明して面白さを伝えたい。これらのスタンプは現在でもアディンクラの布制作の道具として使われている。
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写真提供/小川 弘さん

小川 弘さん
1977年、(株)東京かんかん設立。アフリカの美術品を中心に、アフリカ・インド・東南アジアの雑貨、テキスタイルなどを取り扱っている。著書にアフリカ美術の専門書「アフリカのかたち」。公式ウェブサイト http://www.kankan.co.jp/

African Art 22 東アフリカの枕

アフリカには西から東にわたって様々な形の枕がある。その歴史は古代エジプトに遡るといわれている。今回はその一部、東アフリカの枕を取り上げてみたい。
エチオピアやケニアなど東アフリカの人々は牛を飼って暮らしている。遊牧は男の仕事で、遊牧に出かけられるようになると、もう一人前の男性だ。エチオピアのカロ族やポコト族などの男たちは頭部に泥を固めて作った帽子を被り、その泥に青や赤、黄色などの染料を混ぜて色を付け、羽飾りを付ける。これらは年齢や社会的地位、さらには敵や動物を倒した時の勇気の象徴で、枕はその名誉ある大切な帽子を崩さないためでもある。それぞれの部族が独自のデザインを持ち、長年大切に使われているのでとても木味が良い。

①カラ族(エチオピア)
①カラ族(エチオピア)

②カファ族(エチオピア)
②カファ族(エチオピア)

③シダモ族(エチオピア)
③シダモ族(エチオピア)

④ブラナ族(ケニア)
④ブラナ族(ケニア)

⑤ソマリ族(ケニア)
⑤ソマリ族(ケニア)

①のカラ族の枕は均整のとれた美しい形でエチオピアの枕を代表するものである。②のカファ族の枕はアジスアベバの骨董屋でもっとも多く見かけるもので、シンプルな形が美しい。手に入りやすく安価でもあるが、これもエチオピアの枕の代表である。近隣のシダモ族(③)なども同じであるが、枕はたっぷりと油を含んでいて表面はしっとりと光沢がある。これは男たちが頭髪の栄養剤として髪にバターを塗っているためで、それが枕にも浸み込むらしい。部族によって浸み込み具合は違うが、ほとんどの枕は油分の艶がある。きれいに手入れをしていればいつも光沢のある枕だが、2~3か月も放置しておくとバターにカビが生えて表面が真っ白くなるので困りものである。④のケニアのブラナ族の枕は自然の木の枝を上手く利用して見事である。⑤のソマリ族の枕は美しいデザインと希少性で入手困難なため値段も高い。
⑥ダン族(コートジボワール)
⑥ダン族(コートジボワール)

⑦ショナ族(ジンバブエ)
⑦ショナ族(ジンバブエ)

このほか西アフリカでは、コートジボアールのバウレ族やダン族(⑥)、マリのドゴン族、ブルキナファソのモシ族、ロビ族などにも限りなく面白い造形がある。さらに南部アフリカでは、ジンバブエのショナ族(⑦)にも優れたデザインがある。
アルシ族(エチオピア)
アルシ族(エチオピア)

枕を使って横になるカロ族の男達(エチオピア)
枕を使って横になるカロ族の男達(エチオピア)

このようにアフリカには仮面や神像だけでなく、枕ひとつを取り上げても研究やコレクションに十分見合う興味深い対象があり、エチオピアやケニアに代表される東アフリカの枕だけでも一冊の本が書けるほどである。
写真提供/小川 弘さん

小川 弘さん
1977年、(株)東京かんかん設立。アフリカの美術品を中心に、アフリカ・インド・東南アジアの雑貨、テキスタイルなどを取り扱っている。著書にアフリカ美術の専門書「アフリカのかたち」。公式ウェブサイト http://www.kankan.co.jp/