WILD AFRICA 12 繊細さと危うさを感じさせるチーター

高校生の頃、「わくわく動物ランド」や「野生の王国」と言ったテレビ番組をよく見ていた。西アフリカから日本に戻り、東京という大都市での生活を強いられていた私は、画面に映し出されるセレンゲティやマサイマラの野生動物たちの姿に心を躍らせていたものだ。中でもガゼルを追いかけて草原を疾走するチーターの姿は大好きで、いつか本物を見てみたいと思っていた。(人間に駆逐されてしまい、西アフリカでは大型肉食獣はほぼ絶滅している)
願いが叶ったのは高校卒業後、東アフリカのタンザニアで暮らすようになってからだ。正にテレビで見た通りの、あのどこまでも続くセレンゲティ大平原がそこにはあった。ヌーやシマウマ、トムソンガゼル、そしてそれらを狙うライオンやハイエナ、チーターなどがいるべき場所にいた。理屈では分かっていたが、本物の「野生の王国」を目の当たりにした時のあの衝撃は強烈だった。
ただ実のことを言うと、あの当時はヒョウとチーターの見分け方すら知らないド素人だった。思い返しただけでも赤面してしまうが、チーターの親子だと思っていたものが、本当はヒョウの親子で、写真の現像が上がった時点でやっとその事に気づくという有様だった。
あれから随分年月が経ち、私も多少の経験を積んだ。これまでにタンザニア、南アフリカ、ナミビア、ボツワナで数十頭のチーターたちを写真に収めてきたが、彼等との出合いはいつでも新鮮で飽きる事が無い。ライオンやヒョウのようなふてぶてしさは無く、むしろある種の繊細さ、危うささえ感じさせるチーター。彼等は他の大型肉食獣にしょっちゅう獲物を奪われてしまうため、いつも周囲を警戒しながら行動する。そんな弱さもチーターの魅力の一つなのかも知れない。
写真は1997年にセレンゲティ国立公園のゴル・コピー付近で出会ったチーターたちだ。左にいるのが4頭の子供とその母親、そして右の1頭が成獣のオスだ。通常子連れのメスが成獣のオスに接近することはあまり無いのだが、恐らくはオスがこの母親と血縁関係にあったのだろう。(コピーとはサバンナでよく見られる、丸みを帯びた花崗岩の岩場の事で、獲物から身を隠すのに都合が良いため肉食獣たちに良く利用される)
撮影機材:恐らくニコンF3Tで撮影。それ以外のデータは不明
チーター
英名:Cheetah
学名:Acninonyx jubatus
全長:110~150cm
体高:67~94cm
体重:35~65kg
寿命:16年
写真・文  山形 豪さん

やまがた ごう 1974年、群馬県生まれ。幼少期から中学にかけて、グアテマラやブルキナファソ、トーゴなどで過ごす。高校卒業後、タンザニアで2年半を過ごし、野生動物写真を撮り始める。英イーストアングリア大学開発学部卒業後、帰国しフリーの写真家に。南部アフリカを頻繁に訪れ、大自然の姿を写真に収め続けている。www.goyamagata.com

WILD AFRICA 11 シママングースの引越し

昨年10月末から12月半ばまで南アフリカ、ボツワナ、ナミビアの3カ国で撮影を行った。その際訪れた場所の一つがナミビア北部にあるエトシャ国立公園だ。ここは自然環境の豊かな南部アフリカの中でも特に野生動物が多いことで有名で、大砂丘の連なるソススフレイと並ぶナミビア観光の目玉である。当然のことながら、エトシャを訪れる人のお目当てはライオンやゾウ、サイなどの大型動物なわけだが、小さな生き物たちにも目を向けるようになると、より楽しみが増してくる。しかもそれらは案外身近な場所に現れたりするのだ。
例えば公園内のレストキャンプやピクニックサイトでも、様々な野生動物たちと出会う可能性がある。レストキャンプとはレストランやキャンプ場、コテージ等の宿泊施設が集まっている場所の事を指し、エトシャにはオカウクエヨ、ハラーリ、ナムトーニの3カ所が存在する。いずれもフェンスや塀で囲まれており、危険な大型動物は侵入できないようになっているのだが、小動物や鳥類には全く影響が無い。逆に猛獣がいない事を知って敷地内を生活の場としている動物も多く存在するため、思いがけず面白い場面に出くわしたりする。
写真のシママングースもその一例だ。これはナムトーニの駐車場で撮影したもので、生まれて間もない赤ん坊を違う巣穴へと移している母親の姿である。通常シママングースがこのように小さな子供を巣穴の外に出すなどあまり無いことだ。よっぽどの理由があるのだろうと思っていたら、同じ日の夕方に猛烈な雨が降ってキャンプの大半が水浸しになった。マングースたちは大雨の到来を予見して、より水はけの良い安全な場所に巣穴を移していたのだ。
休憩や宿泊のために利用するレストキャンプだが、気を抜かずに周囲に目を配ると、そこには様々な動物たちの営みがある。しかも敷地内は徒歩で行動できるので、非常に自由度の高い撮影が可能だ。この写真も被写体と同じ目線で撮りたかったので、地面に腹ばいになって撮影した。
撮影データ:ニコンD300, AF-S 500mm f4D, 1/1250 f11 ISO800
シママングース
英名:Banded Mongoose
学名:Mungos mungo
全長:45~70cm
体重:1.5~2.25kg
写真・文  山形 豪さん

やまがた ごう 1974年、群馬県生まれ。幼少期から中学にかけて、グアテマラやブルキナファソ、トーゴなどで過ごす。高校卒業後、タンザニアで2年半を過ごし、野生動物写真を撮り始める。英イーストアングリア大学開発学部卒業後、帰国しフリーの写真家に。南部アフリカを頻繁に訪れ、大自然の姿を写真に収め続けている。www.goyamagata.com