第3回はここ最近のマイブーム、「レユニオン島」の山々をご案内します。レユニオン島は厳密にはアフリカではなく、フランス海外県の島ですが、位置的にも文化的にも「アフリカ」と呼んで差し支えないと思われます。
火山活動が作り上げた「トレッキング天国」
インド洋西部、高低差3,070mの火山島
レユニオン島は、マダガスカルから東に約800kmの位置にあり、モーリシャス島にもほど近く、住民の殆どはフランス、インド、マレー系の人々と黒人の両方をルーツに持っています。面積は2,512㎢、日本の佐賀県とほぼ同じという小さな島ですが、すごいのはその高低差。日本でいうと屋久島や利尻島と比較できるかもしれませんが、海抜0mの海岸線から海抜3,070mのインド洋最高峰ピトン・デ・ネージュ(「雪の峰」の意味)山頂まで、実に多様な景観や植生が広がり、現在も噴火を繰り返している火山島でもあります。
島ができたのは約300万年前のこと。当時の火山活動が海底を約4,000m押し上げ、そのまま地上にそそり立ち、現在の最高峰でもあるピトン・デ・ネージュの元の姿である火山が形成されました。火山活動は徐々に沈静化し、空洞になったマグマ溜まりを押し潰すように山体崩壊が起き、その上に降り注いだ世界最多の降水量(24時間の降雨量がなんと1,870mm!)を誇る雨水がいくつもの谷を削ってできあがったのが、この島の山岳景観です。
世界遺産登録された山岳景観
レユニオン住民のほとんどは、海岸沿いや一部の平地(標高はそれなりに高い)に暮らしていますが、島のほぼ70%にあたる山岳地帯は、そっくりそのまま「レユニオン島の尖峰群、圏谷群および絶壁群」としてユネスコ世界自然遺産に登録されました。いわば島そのものが世界遺産といっても過言ではありません。
火山と雨がぶつかり合ってできたこの景観は独特です。かつて島を作り上げた火山本体のうち、固い部分は針のような峰々や、縁が切れ落ちた巨大な台地状の山となって、険しい姿を残しています。また、かつての底面に近い部分は円形の峰に縁どられ、囲まれた平地(圏谷)として、山中で人が暮らせる場所となり集落や小さな町が形成されています。雨水がもたらす膨大な量の水は皺のようにいくつもの深い谷を穿ち、その川筋には必ずと言っていいほど落差のある滝や滝壺が形成されています。島を横断、または縦断して見渡すと、海岸線と3つある圏谷の底の平地を除き、アップダウンがこれでもか!というほど繰り返された、ノコギリの歯のような地形になっているのがわかります。世界中にここと近い地形の場所を探すと、成立過程も似通っているハワイ諸島になりますが、その荒々しさはより雨が多いためか、レユニオンの方に軍配が上がります。
150を数えるトレッキングコース
レユニオン島には長・短、ハード・お気楽、合わせて150ものトレッキングコースがあります。最高峰を極める、雄大な圏谷を見下ろす、川筋を詰めていき滝壺から眺める滝を目指す、風光明媚な海沿いの散歩道…、状況さえ許せば活動中の活火山の火口を見下ろす極めつけのコースまで、好みと時間に合わせてチョイスは自由です。まさに「トレッキング天国」。宿泊が絡む場合でも、自らテントを担いで自炊しながら歩けるコースや、全てが揃った山小屋で快適に宿泊しつつ歩けるコースまであります。
私もあちこちの山を歩いてきましたが、この島のコースは時間さえ許せば歩いてみたいものばかり。一般的なトレッカーの方々にオススメできるのはもちろんですが、火山マニアの方々には特にオススメです。火山大国・日本では、国内の有名な火山の近くには必ずと言っていいほど「火山博物館」があり、その形成過程から噴火のメカニズムまで、ジオラマを見ながら学ぶことができます。ここでは、そのジオラマがそっくりそのまま実物に置き換わったような景観。初期の活火山状態の山から、山体崩壊した台地状の地形、それを雨水が川となって削り谷を穿っていく様子、冷えた溶岩が剥き出しの荒地と、その荒地を生命力旺盛な植物たちが覆っていく過程まで、リアルに段階を追って知ることができます。しかもスケールが半端なく大きい!写真に収めてしまうと、あの雄大さが表現できず、味気ないものになってしまうのですが、眺めているだけで遠近感が狂ってくるような奥行きの深さは、ぜひ実際に歩いて味わっていただければと思います。しかもこの島、食事(クレオール料理)も酒(ラム酒)もすこぶる美味く、人々も穏やかで優しい!まだまだ知名度の低い島ですが、海外の山歩きが好きな方々、ぜひ次の行き先はレユニオンへ!
羽鳥