自転車の旅はセネガル、ガンビアからマリへとゆっくり進んでいきます。町に入ると、あちこちから「トゥバーブ!(外国人さん!)お茶でも飲んで行きなさい」と声がかかる。誘ってくれるのはありがたいのですが、なかなか飲むことはできません。お湯を沸かすところからスタートし、コップに注いでは茶瓶に戻し、またコップに注いでは茶瓶に戻す。そうやって生ビールの泡のようにお茶を泡立てるのです。モロッコからセネガル、マリにかけて共通していたのですが、いかに泡を多く作るかに一番気を使っているようでした。
コップはウイスキーを飲むようなショットグラス。砂糖は恐ろしいほどたっぷり入れる。これが西アフリカでの作法。お茶にちょっと呼ばれることは30分から1時間は時間を費やすことを意味します。路上の片隅で彼らは1日中、エンドレスでお茶を入れ続けている。そんな中に一緒にしゃがみこみ、お茶ができるのを待ちながら通りを眺めていると、先ほど自転車で走っていたときとは違う風景でその町が見えてきます。お茶を飲むという文化はいいものだなと思いました。
しかし、お茶を飲む人がすべて時間に余裕があるわけではありません。急ぎの客が多いバス乗り場などでは、あらかじめ泡だけを作っておき、泡の入ったコップを盆に乗せて持ち歩く「即席お茶屋さん」もいました。やっぱり大事なのはお茶を入れる「過程」より「泡」なのか…(笑)
文・画 吉岡健一