モロッコをスタートして以来、毎朝の儀式としてコーヒーを飲むことは欠かさなかったが、ケニアからタンザニアに入ると難しくなった。タンザニアといえばキリマンジャロ・コーヒーの国と思っていたのに、大衆的な店で飲めるのはチャイ(ミルクティ)ばかりだった(注:もちろん、まともなホテルに行けばコーヒーは飲めます)。また、ケニアでは英語が田舎でも使えたけど、タンザニアに入るとほとんど使えなくなった。必要に迫られて、スワヒリ語を勉強する。まずは数字から覚えないとホテルの料金交渉もできない。ペダルを漕ぎながら「モジャ、ンビリ、タトゥ…」と唱える日々が始まった。
一日を走り終え、安宿に落ち着いてビールを注文する。決まって聞かれるのが「バリディ?モト?」。訳すれば「冷たいのか?常温か?」となる。ぬるいビールを好む人なんかいるのか?と思うのは日本人の感覚。地元の人は常温のほうが体に良いと思っているらしい。
ナマンガの国境を越え、メルー山を正面に眺めながら走るサバンナは美しかった。国立公園でもない普通の道を走っているのに、キリンの親子が目の前をドドドッと横断したり、草原の中を颯爽と歩くマサイの戦士が、まるで絵のように美しかったり。自分のイメージしていたアフリカの風景に感動しつつ、イメージとは違う小さな発見をすることもけっこう楽しいケニア・タンザニアの旅だった。
文・画 吉岡健一