風まかせ旅まかせ Vol.22 命の重さ

風まかせ旅まかせ Vol.22 命の重さ

昨年は、命の重さについて、改めて考えさせられる年だった。
西アフリカでは、エボラ出血熱が猛威を振るい、発症国であるリベリア、シエラレオネ、ギニアの3カ国では、当初致死率90%以上ともいわれ、満足な治療も受けられずに、すでに8,000人を超える人々が亡くなった。一方、エボラを発症した欧米人は、チャーター機で本国に戻り、最先端の医療を受けることができたため、治癒した人も多い。
アフリカ大陸のその3カ国には、14-5年前に訪れている。独立後長く続いた内戦、政治的な混乱がやっと収束し、本格的な国づくりが始まったばかりだった。当時のリベリアは、首都の空港から町へ至る幹線道路に爆弾で開いた大きな穴がそのまま残っていたし、道端には破壊された戦車の残骸が放置されていた。宿泊したホテルでも、散発的に停電が続いていた。フリータウン(シエラレオネ)の空港は破壊され、バラックの建物には机を並べただけのイミグレがあった。街の角ごとには土嚢が積まれ、兵士が機関銃を構えていた。しかし、そんな中でも市場は活気に溢れ、アフリカ人の逞しさに、ただただ感心した。
豊富な資源をバックにしているとはいえ、ようやく機能し始めたばかりの国々だ。現在でも、首都でさえインフラ整備は大きく遅れている。まして田舎では電気や水道はないのが当たり前。当然設備の整った病院など望むべくもない。子供が発熱しエボラと言われても、マスクも手袋も消毒液さえない中で、母親は、家族はそれこそ素手で子供を抱いてあげるだけで何もできない。そして家族全員が罹患し全員が死亡する。そんなケースが連鎖することは容易に想像できる。本当にアフリカでは信じられない程、簡単に人が死ぬ。命の重さは同じはずなのに。
「TIME」誌は、年末恒例の「パーソン・オブ・ザ・イヤー“今年の人”」に、西アフリカでエボラと闘う医療従事者や、感染からの生存者を選んだ。確かにその通りだと思う。エボラと闘う人々には、心から拍手を送りたい。
今年、エボラの終息が発表されたら、3カ国を再び訪れてみたいと思う。もともと美しい海や森に囲まれて、豊かな文化や音楽を持つ、陽気で明るい人々が住む国々なのだから。
写真 : リベリアの海岸