Africa Deep!! 42 アフリカ女性の命はヘアースタイルにつきる

アフリカの女性はおしゃれだと思う。
特にヘアースタイル。アフリカを旅したことのある人なら、実に多種多様な彼女たちのヘアースタイルに感心したことがあるに違いない。
そのこだわりと、手入れの時間のかけ方が半端ではない。木陰や家の前などで女性が数人集まっているところをのぞくと、たいてい髪型を整えている最中だ。日本のように定規型の歯が細くて短い櫛ではなく、どちらかというと縦型で歯がすごく長くて隙間があいているタイプのものが使われる。
地毛はものすごい巻き毛だから、日本で使われる櫛では髪はふつうに梳けない。だからたいていはふたりが一組になり、ひとりが後ろにまわって蜂の巣のような髪に櫛を差し込むようにして梳くのである。梳いた髪はそのままの形でぴんと立ったままだ。だから梳いている最中は、彼女たちの頭は超バクハツといった形のまま固まっている。この中途半端な髪型のときに話しかけたりカメラを向けたりすると、あまり見られたくないようで、「きゃー、いやぁー」と笑いながら身をよじって拒絶されることが多い。
このあとヘアースタイルの選択肢はふたつある。いわゆるエクステンションを地毛に絡ませて編みこんでいくか、あるいは直毛パーマをかけるかである。エクステンションは市場に行けばそれこそさまざまな色や種類のものが売られている。アフリカ女性の髪は非常に癖が強いため、ピンやゴムを使わなくても編みこむだけでしっかりと止まる。
直毛パーマは日本と同じでカーラーを巻きつけていく。アフリカ人女性はほぼ百パーセントが巻き毛なため、直毛に対して僕たちが思っている以上に強い憧れをもっている。ないものねだりをするのが人間の常なのである。だから美しい黒髪の日本人女性は彼女たちにとっては羨望の的なのだ。日本人の女性ならストレートな髪型でアフリカに行ったほうが絶対に受けが良いと思う。同時に、アフリカに行ったら髪の毛を触られまくるのを覚悟しておいたほうがよい。
現地では、おしゃれは何も大人だけの専売特許ではなく、子どもたちも母親や姉に編んでもらうことはふつうだ。凝った髪型をしている小さな女の子はちょっと得意げである。意外に多いのが、カツラ。こちらは短髪の人がよく利用する。カツラを外すとまるで別人のような顔になるため、僕はよく人違いをして恥ずかしい思いをしたものだった。
写真・文  船尾 修さん

船尾修さん
1960年神戸生まれ。写真家。1984年に初めてアフリカを訪れて以来、多様な民族や文化に魅せられ放浪旅行を繰り返し、いつのまにか写真家となる。[地球と人間の関係性]をテーマに作品を発表し続けている。第9回さがみはら写真新人賞受賞。第25回林忠彦賞受賞。第16回さがみはら写真賞受賞。著書に「アフリカ 豊穣と混沌の大陸」「循環と共存の森から~狩猟採集民ムブティ・ピグミーの知恵」「世界のともだち⑭南アフリカ共和国」「カミサマホトケサマ」「フィリピン残留日本人」など多数。元大分県立芸術文化短大非常勤講師。大分県杵築市在住。
公式ウェブサイト http://www.funaoosamu.com/

Africa Deep!! 41 砂漠の民に潜む優しさとしたたかさと

エジプトのカイロ郊外で開かれているラクダ市を見に行ったときのこと。
ラクダは気性が荒く、気に食わない人間が近寄ると、すごく臭いゲップを吐きかけてくる、と聞いていたので、最初は用心して遠巻きに眺めていた。ラクダは前足を縛られ、逃げられないようにされている。
売買する人たちは皆ターバンを巻き、いかにも砂漠の民といった風の男だ。市が始まってずいぶんと経つのに、男たちはひそひそと静かに話し合ったり、水煙草を悠然とくゆらせている。そこのジャパニ、チャイでも飲んでいけと誘ってくれる人もいる。
砂漠の民は外の世界からの旅人には優しく物静かだ。しかし、それにしてもいったいいつ取引が始まるのだろうか。と、見物するのも少々飽きてきた。暇なので、ラクダは本当に臭いゲップを吐きつけるのか、棒でつついて試してみようかと考え始めたときだった。
突然、背後から激昂した怒鳴り声が浴びせかけられた。思わず振り返ると、ターバンの男がふたり睨みあいながら、いまにも掴みかからんばかりの勢いで互いにののしりあっている。いったい何事が起きたのだろう。
喧嘩をしているふたりの男は顔を真っ赤にし、拳を振り上げながら唾を飛ばしている。周囲の人たちはしかし、仲裁に入るわけでもなく、さりとて無視するでもなく、成り行きを静かに見守っているだけだ。このふたりが単にラクダの取引をしているのだと気がついたのはそれからしばらくしてからのことである。それだけ売買の仕方は激しかった。ぼくたち和をもって尊しとする東洋の人間ではとても歯が立ちそうにない。
しかし、取引が終了したとたん、ふたりは旧知の親友のような親密さで、互いに肩を抱き寄せ、手をつなぎながら満面の笑みを浮かべている。そして何度も何度も抱擁を繰り返す。さきほどまでの激しさはどこにもない。ふたりの表情のあまりの急激な変化の裏に、ぼくは砂漠の民のしたたかさを見る思いだった。
写真・文  船尾 修さん

船尾修さん
1960年神戸生まれ。写真家。1984年に初めてアフリカを訪れて以来、多様な民族や文化に魅せられ放浪旅行を繰り返し、いつのまにか写真家となる。[地球と人間の関係性]をテーマに作品を発表し続けている。第9回さがみはら写真新人賞受賞。第25回林忠彦賞受賞。第16回さがみはら写真賞受賞。著書に「アフリカ 豊穣と混沌の大陸」「循環と共存の森から~狩猟採集民ムブティ・ピグミーの知恵」「世界のともだち⑭南アフリカ共和国」「カミサマホトケサマ」「フィリピン残留日本人」など多数。元大分県立芸術文化短大非常勤講師。大分県杵築市在住。
公式ウェブサイト http://www.funaoosamu.com/

Africa Deep!! 40 “買い食い”こそが旅の醍醐味なのかもしれない

これは何もアフリカだけに限ったことではないのだが、アジアや南米を旅したことのある人ならだれでも、露店でいろいろな食べものが販売されているのを見かけたことがあるだろう。季節の果物の他、手作りのスナック菓子から、その場で調理してくれる串焼肉などまで、国や地域によって実にさまざまな食材が並んでいる。あるいはバスなどの公共交通に、売り子がさまざまな食べものを手に乗り込んでくることもある。
レストランできちんと三食をとらなくても、こうした露店に並ぶ食べものだけを口にしながら旅をすることだって十分可能だ。しかし、旅人の多くは露店を前にしてこう考えることだろう。「果たして食べても大丈夫だろうか? お腹を壊さないだろうか?」
その考えはもっともだし、いたって正しいと思う。実際、炎天下や埃っぽい場所で売られていることもあるため、衛生面で心配だ。だが、同時に、そういった食べものを忌避することは、旅のヨロコビをみすみす半減させているともいえる。
露店でモノを売る文化というのは、どういうわけかGDP値が高くなればなるほど衰退に向かう(←僕の勝手な法則)。アジアやアフリカのGDP値が日本と比べて低い地域をわざわざ選んで旅しようと考える人の多くはきっと、その国の、あるいはそこの民族の文化に興味があるから訪れるのだと思う。なのに、彼らの食文化のエッセンスがギュッと凝縮されている露店の食べものを避けるのはもったいないのではないだろうか。
僕は長年旅を続けているせいか滅多に腹を壊さなくなった。口の悪い友人は「船尾の胃は現地人並みだ」と褒めているのか貶しているのかわからない言葉を吐くが、これでも僕なりのルールというものがちゃんとあるのだ。①果物は皮をむく ②火を通したばかりのものを購入する ③流行っている店を選ぶ。どうです、簡単でしょ。まあそれでも腹を壊してしまったら、まっすぐ病院へ行ってください。それも旅の貴重な経験です。
写真・文  船尾 修さん

船尾修さん
1960年神戸生まれ。写真家。1984年に初めてアフリカを訪れて以来、多様な民族や文化に魅せられ放浪旅行を繰り返し、いつのまにか写真家となる。[地球と人間の関係性]をテーマに作品を発表し続けている。第9回さがみはら写真新人賞受賞。第25回林忠彦賞受賞。第16回さがみはら写真賞受賞。著書に「アフリカ 豊穣と混沌の大陸」「循環と共存の森から~狩猟採集民ムブティ・ピグミーの知恵」「世界のともだち⑭南アフリカ共和国」「カミサマホトケサマ」「フィリピン残留日本人」など多数。元大分県立芸術文化短大非常勤講師。大分県杵築市在住。
公式ウェブサイト http://www.funaoosamu.com/