WILD AFRICA 27 鳥撮りのサファリ

一般的に、野鳥の観察をする人をバードウォッチャーまたはバーダーと呼ぶ。しかし、中には見ているだけでは飽き足らず、鳥は撮ってなんぼという人々もいる。彼らは俗に鳥撮り(とりとり)と呼ばれる。さらにその中に、可能な限り多くの種類を記録として写真に収めることを目的とする人と、写真の「絵」としての完成度を追求し、納得がいくまで同じ鳥を撮り続ける人とがいる。私も昔から鳥が大好きで、中学3年までの4年間を過ごした西アフリカでは、よく野鳥を罠で捕らえて飼っていた。写真を撮るようになってからも鳥類への興味は衰えていないので、その意味では鳥撮りであり、写真家の看板を掲げている以上、絵のクオリティーにこだわるほうだ。
アフリカのサファリでは、とにかく多くの鳥たちに出会う。それも巨大なダチョウからとても小さなタイヨウチョウの仲間まで、姿形も色彩も実に様々だ。南アフリカのクルーガー国立公園だけをとってみても、実に500種以上の野鳥が確認されている(渡り鳥も含む)。野鳥に興味を持つようになれば、サファリはより一層楽しいものになると私は思う。サバンナでゲームドライブに出て、一羽の鳥も見当たらないということは稀だが、大型哺乳類がまったく姿を見せない時間帯というのは結構あるからだ。
問題は、サファリで哺乳類にしか興味がない人と、ひたすら鳥が撮りたい人とが同じ車に乗り合わせてしまったときだ。せっかくアフリカまでやってきたのだから、鳥類にも哺乳類にも、そしてサバンナの生態系を構成するすべての生き物にも興味を持ってもらいたいものだ。ちなみに、以前人づてに聞いた話だが、ある時クルーガー国立公園で、老婦人がたのグループを案内することになったガイドが、ゲームドライブに出発するにあたり、何が見たいのかと訪ねたところ、全員が口を揃えて「木が見たい!」と答えたそうだ。実はそのグループ、南アフリカの園芸クラブ御一行様だったのだ。一口にサファリといっても、楽しみ方は色々あるものだとその話を聞いて思ったが、同時に、もし自分がそんな人たちと同じ車に乗り合わせたらどうしただろうと考え込んだ。
写真は水場に降りてきたムラクモインコだ。ボツワナ、マシャトゥ動物保護区のエレファント・ハイドから撮影した。あの撮影施設には、哺乳類のみならず、多くの鳥たちが入れ替わり立ち替わりやってくるので、鳥撮りにとっても実に楽しい。
撮影データ:ニコンD4、AF-S 500mm f4DII、1/2500秒 f9 ISO2000
ムラクモインコ
英名:Meyer’s Parrot
学名:Poicephalus meyeri
全長:22cm
写真・文  山形 豪さん

やまがた ごう 1974年、群馬県生まれ。幼少期から中学にかけて、グアテマラやブルキナファソ、トーゴなどで過ごす。高校卒業後、タンザニアで2年半を過ごし、野生動物写真を撮り始める。英イーストアングリア大学開発学部卒業後、帰国しフリーの写真家に。南部アフリカを頻繁に訪れ、大自然の姿を写真に収め続けている。www.goyamagata.com

WILD AFRICA 26 マラマラ・マシャトゥ スーパーサファリ

2014年9月3日から12日までの日程で、私が撮影ガイドを務める「マラマラ&マシャトゥ自然写真撮影ツアー」が催行された。いずれの場所もこのコーナーで既に紹介しており、素晴らしいサファリになるという自信はあったので、「究極のサファリ」と銘打って宣伝させてもらったが、結果は究極を通り越して超絶とでも言うべきものとなった。
9月4日早朝、ヨハネスブルグに到着したその足でマラマラまで陸路を移動し、午後のサファリに間に合うタイミングで現地入りした。夕方ゲームドライブに出ると、早々に河辺でくつろぐライオンのプライド(群れ)と遭遇。日没後には最初のヒョウにも出会った。ロッジへ戻る直前の夜7時半、河辺で見たライオンがインパラを捕えたとの一報が入り、現場へ急行すると、メスライオンたちが獲物を巡って争っている最中だった。のっけから凄いことになったものだと思いつつも、内心では大したものが現れない静かな日もあるだろうと見ていた。ところが、私の予想に反して連日怒涛のようにシャッターチャンスは訪れた。
今回のツアーで特に際立っていたのが肉食獣の多さで、ヒョウ、ライオン、リカオン、チーター、ブチハイエナという、大型肉食獣たちを短期間で見られたことは特筆に価する。とりわけヒョウに関しては、生後3カ月弱の子供2頭を連れた母親を含め11頭もの個体に会い、ヒョウを見ていない日が全行程を通して一日もないという、とんでもない結果となった。チーターも小さな子供5頭を連れていたし、ライオンもほぼ毎日現れた。さらにマシャトゥでは、ヒョウがインパラを食べているところにブチハイエナたちがやってきて獲物を奪い、大騒ぎするという大迫力の場面を目撃した。
それ以外にも、ヨコスジジャッカルやタテガミヤマアラシ、カワイノシシといった、普段のサファリではあまりお目にかからない動物を含め、全部で33種もの哺乳類を見るに至った。アフリカで野性動物を撮るようになってかれこれ20年以上になるが、このような密度の濃いサファリは初めての経験だった。
写真のヒョウは、2日目の夕方、マラマラで撮影したものだ。メスの首に噛み付くオスと、噛み付かれるメスの形相は、およそ交尾とは思えぬ凄まじいものだった。しかもヒョウはこれを数分置きに繰り返していた。このようなシーンを目の前でゆっくりと観察・撮影するという贅沢を体験できるのも、動物の数が多く、自由度と完成度の高いサファリを提供する南部アフリカの私営動物保護区ならではだ。
撮影データ:ニコンD4、AF-S VR 80-400mm f4.5-5.6G、1/160秒 f5.6 ISO1600
写真・文  山形 豪さん

やまがた ごう 1974年、群馬県生まれ。幼少期から中学にかけて、グアテマラやブルキナファソ、トーゴなどで過ごす。高校卒業後、タンザニアで2年半を過ごし、野生動物写真を撮り始める。英イーストアングリア大学開発学部卒業後、帰国しフリーの写真家に。南部アフリカを頻繁に訪れ、大自然の姿を写真に収め続けている。www.goyamagata.com

WILD AFRICA 25 セグロジャッカルの狩り

一般的に、哺乳類であれ鳥類であれ、狩りの瞬間を撮影するのは難しい。そもそも狩りの場面に出くわす確立自体が低い上に、いざことが起きると一瞬でケリが付いてしまう。相手をファインダーの中に捕らえるどころか、肉眼で追うのがやっとだったりすることもしばしばだ。さらに、追われた獲物は逃げ切ろうと必死になるから、肉食動物の狩りの成功率は決して高くない。一度失敗したら、次の狩りまでには相当間があるのも普通だ。
撮る側としては、決まった場所と時間に獲物がやってきて、決まった方向から獲物に襲い掛かる肉食獣がいてくれればこれほど楽なことはない。しかも一発勝負ではなく、何度も繰り返し同じような場面を撮れれば、「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる」方式に成功率は上がるに違いないのだ。そんな好都合なことが現実に起きるわけがないと思われるかもしれないが、時としてばかばかしいほどによい条件が揃うから自然は面白い。
これは南部アフリカのカラハリ砂漠での出来事だ。そこは小さな水場で、早朝に行っても2頭のセグロジャッカルがゴロゴロしている以外特に変わったことはなかった。ところが、7時半をまわった途端、シロボシサケイというハトの仲間が群れをなして水を飲みにやってきた。最初は20羽程度が上空を旋回し、地上の様子を伺うのみだったが、やがて一羽が喉の渇きに耐えかねて降下し始めると、たちまち数十羽が地表に降り立ち、水を飲んではまた飛び立ってゆくようになった。その間にも上空を旋回するサケイの数はどんどん増えていった。
近くの藪に隠れていた2頭のジャッカルは、サケイたちが降下を始めると、ピンと耳を立て、上空へと注意深く視線を注いだ。そして鳥が着地する寸前、揚力を失って最も無防備になる瞬間を狙い猛然と牙をむいて襲い掛かった。成功率は5回に一回程度だったが、何しろ朝の7時半から10時くらいまでの間に数百羽が入れ替わり立ち代りやってきたため、いくらでもやり直しがきき、ジャッカルはたらふく鳥を食べるに至った。
狩りをするジャッカルにとっての好条件は撮影者にとっても同じで、一回撮り損ねても、すぐさま次のチャンスがやってくるというのはこの上なくありがたかった。この日は、十数羽のシロボシサケイがジャッカルたちの腹に収まり、私も狩りの瞬間を繰り返し撮ることができた。こんな風にリカオンやヒョウの狩りが撮れたらいいのにと、さらに都合のよいことを考えてしまうから人間の欲望は際限がない。
撮影データ:ニコンD4、AF-S VR 80-400mm f4.5-5.6G、1/2000 f11 ISO1000
セグロジャッカル
英名:Black-backed Jackal
学名:Canis mesomelas
体長:70〜100cm
体高:38cm
体重:6.5〜13.5kg
寿命:6年
写真・文  山形 豪さん

やまがた ごう 1974年、群馬県生まれ。幼少期から中学にかけて、グアテマラやブルキナファソ、トーゴなどで過ごす。高校卒業後、タンザニアで2年半を過ごし、野生動物写真を撮り始める。英イーストアングリア大学開発学部卒業後、帰国しフリーの写真家に。南部アフリカを頻繁に訪れ、大自然の姿を写真に収め続けている。www.goyamagata.com

WILD AFRICA 24 マシャトゥのチーターとハイエナ

2月25日の夕暮れ時、私はボツワナのマシャトゥ動物保護区にいた。この日も目一杯撮影を行い残照も消えかけたころ、付近にチーターが出たという一報が入った。急いで現場に駆けつけてみると、3頭の若いチーターがヌーの子供を倒したばかりだった。一頭のチーターがまだのど笛に噛み付いていたところを見ると、ヌーはまだ死んではおらず、到着があと2分早ければハンティングシーンも見られたくらいのタイミングだった。
数分後、ついにヌーは息絶え、3頭は大急ぎで一番手のつけやすい内蔵からむさぼり始めた。チーターがのんびりと獲物を食べないのには、大きな理由がある。サバンナに暮らす大型肉食獣の中で、彼らは最も力が弱く、うかうかするとライオンやハイエナにすぐ獲物を横取りされてしまうのだ。何しろチーターはヒョウのように獲物を安全な木の上に持って上がることもできなければ、他の動物を撃退するライオンほどの力も持ち合わせていない。猛スピードで走れるようになった代償として、彼らは多くのものを失ったのだ。
ほどなくして、目ざといブチハイエナが1頭、薮の向こうから姿を現した。そして全く躊躇することなくチーターたちの所まで駆け寄ったかと思うと、あっという間に獲物を奪い去ってしまった。3頭のチーターは牙をむき出しにして威嚇を繰り返したが、ハイエナに攻撃を加えることはなかった。ブチハイエナは骨をも砕く強力な顎を持っており、噛まれでもしたらひとたまりもないことをチーターたちは知っているのだ。間もなくハイエナは1頭から3頭に増え、見る見るうちにヌーを平らげてしまった。
マシャトゥの素晴らしさは、この連載で以前にも紹介しているが、今回の滞在でも、期待通り動物たちの様々な姿を観察、撮影することができた。通常の国立公園などでは時間的な縛りが厳しく、どんなに面白い場面が目の前で繰り広げられていようと、決められた時間までにキャンプに戻らねばならない。そのために幾度となく悔しい思いをしてきた。ところがマシャトゥでは、何かエキサイティングなことが起きれば、たとえ日没後であったとしてもかなり余裕を持ってその場に留まらせてくれるので、本当にありがたい。この日もロッジに戻ったのは、日没から2時間以上が経過した夜8時過ぎだった。
撮影データ:ニコンD4、AF-S VR 80-400mm f4.5-5.6G、使用焦点距離155mm、1/125秒、f5、ISO6400、露出モード:マニュアル、スピードライトSB910、車載スポットライト使用
写真・文  山形 豪さん

やまがた ごう 1974年、群馬県生まれ。幼少期から中学にかけて、グアテマラやブルキナファソ、トーゴなどで過ごす。高校卒業後、タンザニアで2年半を過ごし、野生動物写真を撮り始める。英イーストアングリア大学開発学部卒業後、帰国しフリーの写真家に。南部アフリカを頻繁に訪れ、大自然の姿を写真に収め続けている。www.goyamagata.com

WILD AFRICA 23 マラマラでライオンの子供を撮る

昨年の10月、南アフリカのマラマラ私営動物保護区で、小さな子供のいるライオンのプライド(群れ)に出会う機会があった。子供たちは、まだ生後2~3カ月程度で乳離れもしていなかったが、活発に動き回って車のすぐそばまで来てくれた。ネコ科動物の子供が間近で撮れたのは、たまらなく嬉しかった。
しかし、このような被写体の撮影に際しては、注意も必要となる。巣穴の場所が分かっていても、こちらが不用意に近づき過ぎて警戒されてしまうと、子供たちは巣穴の外に出てこなくなるし、相手に過剰なストレスがかかると、母親が巣穴の場所をよそへ移しかねないのだ。そのような事態は、無防備な子供を危険に晒すことにもつながるので、絶対に避けねばならない。
この点マラマラのような私営動物保護区では、長年にわたり動物たちがサファリカーの存在に慣らされてきたので、かなり近くまで寄れる。また、車の運転もしっかりと訓練を受けたガイドが行うので安心だ。加えて、南アフリカやボツワナの私営保護区では、動物たちの安全に対する高い意識を持っており、生後すぐの赤ん坊がいる動物の巣穴には観光客を連れて行かないという。こうすることで動物に無用なストレスを与えずに済み、子供たちは徐々に人や車に慣らされてゆくのだ。
撮影条件の面でも、私営動物保護区のほうが通常の国立公園などより圧倒的に有利だ。と言うのも、サファリカーで道を外れてブッシュに分け入ることが許されているため、ポジションをかなり自由に決められるし、車には屋根がないので、撮影アングルの確保が実に容易なのだ。日が暮れてからもしばらく撮影が続けられたりするなどの「オマケ」までついてくる。もちろん、その分値段はかなり高いのだが、それだけの価値があるという自負があるからこその価格設定なのだ。
ところで、一見無邪気に見える子ライオンの遊びは、その実彼らが捕食者として生き残ってゆくために欠かせない貴重な訓練でもある。獲物に忍び寄り、距離とタイミングを見計らって飛びかかった後、爪を立てて相手を倒し、のど笛か鼻面に噛み付いて窒息させる。この一連の動作のどれか一つが欠けるだけで、狩りは失敗に終わってしまう。ライオンたちは、子供のうちに基本的な動きを遊びの中で身につけ、大人の狩りに同行できるようになると、実際の現場を体験し一人前になってゆくのだ。
撮影データ:ニコンD800、AF-S 500mm f4D II、1/800秒 f5 ISO1250
ライオン
英名:Lion
学名:Panthera leo
体長:♀158〜192cm  ♂172〜250cm
体重:♀122〜182kg  ♂150〜260kg
寿命:13年
(数値はいずれも成獣)
写真・文  山形 豪さん

やまがた ごう 1974年、群馬県生まれ。幼少期から中学にかけて、グアテマラやブルキナファソ、トーゴなどで過ごす。高校卒業後、タンザニアで2年半を過ごし、野生動物写真を撮り始める。英イーストアングリア大学開発学部卒業後、帰国しフリーの写真家に。南部アフリカを頻繁に訪れ、大自然の姿を写真に収め続けている。www.goyamagata.com